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やまつり 空 和紙工房 日本暦研究所 のブログ


by yui-yayoi

世界最古の日食記録

として、レビューを書いたハイロ・レストレポ・リベラ著『月と農業』(農文協)に以下のような記述がある。



… 世界で記録に残っている最古の日食記録は、中国のTchoung-Kang皇帝の時代、紀元前2137年である。(37ページ右段24行)



 この本はレビューにも書いたように内容に不備が多く、ちっとも万全ではない。それはスペイン語原書の不完全さのせいもあるだろうし、それを註釈できない翻訳者の力不足のせいもあるように思う。上の引用箇所などは古代中国の日食記録に関することを知らないと翻訳も難しい箇所だと思う。皇帝の名前も訳せないし、いきなりキリスト生誕紀元前年代で表現されている根拠も説明ができない。

 僕はこの本の数々のおかしい箇所のそれぞれの理想的な訂正を考えていた。そしてこの箇所の答えが出た。この日食記録の原典は儒教の経書の一つ『書経』の中の記述らしい。そこには伝説上中国最古の王朝“夏”の四代目皇帝“仲康”五年秋の最後の月の一日に起こったと記述しているらしい。『経書』の内容は神話とも歴史とも決めかねるものであり史実ではないという見方もあるが、この日食記述に関して多くの天文学者が年代推定を行っているのだ。

①紀元前2128年(ユリウス暦換算10月13日)(僧一行の説)
②紀元前2155年(ユリウス暦換算10月12日)(ゴービルの説)
③紀元前2156年(ユリウス暦換算10月22日)(グンパッパの説)
④紀元前2137年(ユリウス暦換算10月22日)(オポルツアーの第1説)
⑤紀元前2072年(ユリウス暦換算10月23日)(オポルツアーの第2説)
⑥紀元前2165年(ユリウス暦換算5月7日)(シュレーゲル、キューネルトらの説)

 『書経』の日食記述に関してざっと以上の年代推定が行われてはどれも決定打には結びついていない、と斉田博氏の本『おはなし天文学3』(地人書館)にある。そして、近年アメリカで出版されている天文解説書はほとんど④説を掲げているとも。
 これで、『月と農業』の先の引用箇所記述の根拠が明白になった。「Tchoung-Kang皇帝」とは仲康のことであり、紀元前2137年とは「仲康五年」の年代推定の一説だということ。
by yui-yayoi | 2009-05-02 15:07