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やまつり 空 和紙工房 日本暦研究所 のブログ


by yui-yayoi

不定時法について

 一日という時間を区切る区切り方を時法といいますが、不定時法とは一日を最初に昼と夜とに分けて、それから昼夜をそれぞれに区切る区切り方のことをいいます。一日を昼と夜とに分けるこの不定時法は自然な時法であり、その歴史は記録では遡りきれないほどに古いものです。
 一方現在、昼とか夜とかに関係なく86400秒(まれに86401秒)を一日と定めるように、一日を一定の長さの時間で細分する区切り方を定時法といいます。

 一日という時間の長さを決めるのはお日さまであり、このお日さまの動きを読む日時計は“時刻”を知るための道具なので、“時計”の原型といえます。一方、水時計や砂時計やその他の機械時計は、一様に経過する“時間”の長さを測るタイマーであり、これらの“時間計”の発達が定時法を生んだと考えられます。現に、ヨーロッパで定時法が現れるのは機械時計が作られた14世紀後半と言われています。

 日本では7世紀の飛鳥時代、天智天皇のころに中国から水時計「漏刻」が輸入されて一時は定時法が現れますが実用性がなかったためか廃れてしまい、不定時法が存続します。そして江戸時代には不定時法を精密に定め、「大名時計」のような不定時法による機械式の和時計が生まれるに至りました。そしてこの不定時法は、明治6年(1873)の改暦の時に廃止されるまで正式なものでした。

 日本で用いられてきた不定時法は、まず昼と夜との境目として、暗闇の中から辺りの物がようやく見え始める「夜明け」の時を明六ツ(あけむつ)、夕焼けが終わって完全に暗くなる直前の「日暮れ」の時を暮六ツ(くれむつ)として、寛政暦においてそれぞれをお日さまの中心が地平線の下7度21分40秒にある時と決めていたようです。そして、明六つと暮六ツによって分けられた昼と夜とをそれぞれ六等分し、その分割された一つを一刻(イットキ)としました。不定時法という名が示す通り、この一刻(イットキ)の長さは季節によって昼夜違うし、緯度、標高によっても変わります。また、日の出、日の入り時刻が土地によって異なるように、明六ツや暮六ツはその土地ごとに違う複雑さと多様性に富んだ時を持つことになります。しかし、時刻が空の明るさと連動し、お日さまの高さで時刻が分かるこの不定時法は日中の明るさや日差しを無駄無く活用するためには、真に有効な時法だと思います。電灯や灯油に頼らないで暮らす偉大な知恵とも言えると思います。

 多くの生き物たちはお日さまがつくる“時”に合わせて活動していますが、自然界の生き物たちは当たり前に不定時法で活動していると言えます。

 現在の暦書には、よく日の出時刻や日の入り時刻が掲載されています。その訳は明治6年の改暦&改時法が行われたことにより、夜明けや日暮れと時刻とが切り離され、不定時法のように時刻が夜明けや日暮れを表さなくなった不便さを助けるためだったのではないかと思います。しかし、日の出や日の入りで空の明るさが急変するわけではありません。空は日の出前から明るいし、日の入り後も明るいものです。地平線の無い日本では実際に陽射しが射し始めるのは山や建物の縁からだったりするわけで、日本の陸地においては日の出時刻、日の入り時刻というものはあんまり意味を成さないように思われます。むしろ、刻一刻と明るさが変化する明暗の境目である明六ツや暮六ツの時刻を知ることの方がずっと実用的に思われます。例えば明六ツに起床すれば電灯を点けなくても顔を洗ったり用便を済ませたりくらいのことはできる薄暗がりであるわけで、活動の準備が整う頃にちょうど外が明るくなり、日の出時刻の前に明るくなるのと同時に屋外で活動が始められるはずです。また、照明が無ければ手元もはっきりとは見えなくなり屋外での活動を終えて明かりを燈さなければならなくなる時がちょうど暮六ツだからです。

 このように明六ツや暮六ツは、陸地に暮らす人々にとって日の出時刻や日の入り時刻よりも実用性の高い時刻と思われるのですが、あいにくほとんどの暦に明六ツも暮六ツも記載されてはいません。私が確認できたものは丸善が発行している国立天文台編『理科年表』の暦の部だけです。とは言っても掲載されているのは、東京における五日毎の時刻だけです。ちなみにその本の中では、「明六ツ」や「暮六ツ」という言葉を出すことは避けられ、「夜明」と「日暮」という言葉で置き換えられているのですが…。

 今、私は暦を制作していますが、昨年まで日の出時刻、日の入り時刻を記載してきたのを今回は明六ツ時刻、暮六ツ時刻を記載したいと考えています。もちろん、その土地の緯度、経度、標高によって同じ季節でも日本標準時による時刻は異なります。そこで、秒単位の精度は求めなければ簡単に誤差2~3分以内で明六ツと暮六ツの日本標準時による時刻を計算できる計算式を考案してそれを添えることを考えています。
 今回はそんなこんなで制作の進行が遅れぎみですがどうぞよろしくお願いいたします。
by yui-yayoi | 2008-10-08 04:35